コンテンツにスキップ

業務外勉強とシグナリング

2017-07-21 公開

われわれはかしこいので

ソフトウエアエンジニアは業務時間外にも勉強すべきか、という議論は度々話題に上がる。 先日も株式会社アクシアの米村社長の書いたエントリが話題になった。

以前、大学院生の時に学部生のゲーム理論セミナーの聴講をしていた。 そこで情報不完全ゲームにおけるシグナリングというのを知った。 岡田『ゲーム理論 新版』から引用しつつ自分の考えを整理したい。

情報不完備な労働市場

ゲームの流れ

  1. 企業が1人の労働者を雇用したいと考えている。
  2. 労働者には能力が高いタイプと低いタイプの2通り存在し、それぞれの割合は1 : 2と推測されている。
  3. 能力が高いタイプを雇った場合、低いタイプを雇った場合の企業の利得はそれぞれ1, -1である。雇わない場合の利得は0である。

労働者のタイプが事前にわからない情報不完備な労働市場の場合、もし企業が労働者を雇うならば、企業側の期待利得は

\[ \frac{1}{3} \times 1 + \frac{2}{3} \times (-1) = -\frac{1}{3} \]

となり、企業側の最適な戦略は労働者を雇わないことになる。 能力が低い労働者だけでなく能力が高い労働者も雇ってもらえないことになる。

労働者のシグナリング

プレイヤーがある行動を選択することで自分のタイプを顕示しようとする行為をシグナリングと呼ぶ。 今回のケースでは労働者が自身の教育に投資する行為がシグナリングとなる。

ゲームの流れ

  1. 最初に労働者が教育に投資するか否かの選択肢を持つ。
  2. 企業は労働者の投資の選択を知ったうえで雇用するか否かを決定する。
  3. 労働者の利得は雇用されれば6、雇用されなければ0とする。
  4. 教育の投資コストは、能力の高い労働者は3、能力の低い労働者は8とする。

まず、能力の低い労働者の場合、教育に投資しない戦略は教育に投資する戦略を支配している。よって能力の低い労働者は教育に投資しない。 労働者が教育に投資するならば、企業はその労働者の能力が高いと推測できるから雇用する。

労働者が教育に投資しない場合の、労働者の能力が高い条件付き確率を考える。 能力が高い労働者が教育に投資しない確率を \( p \) とすると、能力が低い労働者は常に投資しないことから、ベイズの定理により、

\[ \Pr(\text{高} \mid \text{非投資}) = \frac{p \cdot \frac{1}{3}}{p \cdot \frac{1}{3} + 1 \cdot \frac{2}{3}} = \frac{p}{p + 2} \]

となる。\( 0 \le p \le 1 \) の範囲で常に \( \frac{p}{p+2} < \frac{1}{2} \) となるから、労働者が教育に投資しない場合の企業の最適戦略は労働者を雇用しないことである。 この企業の最適戦略を前提にすると、能力の高い労働者は投資すれば利得 \( 6 - 3 = 3 \)、投資しなければ利得 \( 0 \) となるから、最適戦略は教育に投資することである(すなわち \( p = 0 \))。

以上より、能力の高い労働者は教育に投資する、能力の低い労働者は教育に投資しない、企業は教育に投資する労働者のみを雇用する、という分離均衡が成立する。

ソフトウエアエンジニアは業務時間外にも勉強すべきか?

あくまでも上記の前提だと「教育に投資すること」がシグナリングになる、という話であり、本当に業務時間外に勉強することがシグナリングになるかどうかはわからない。 それでも、私は大学院生時代にこの話を聞いてシグナリングの重要性を感じた。 自分の経験を言えば、業務時間外で学んだことが有利になったこそすれ不利になったことはない。 私としては、業務時間外の勉強を進めて自分が有利になるように立ち振る舞いたいと考えている。