代数学の基本定理¶
2014-10-21 公開
仕事でも数学を使う。 先日は、いわゆる微積分学の基本定理を少し用いた。 微積分学の基本定理は、微分と積分が表裏一体であることを主張している。 高校では、これを前提に積分を微分の逆演算として定義している。 この定理が知られるまでは、微分と積分は全く別物だと考えられていた。
「基本定理」という名を持つ定理として有名なものの1つに、代数学の基本定理がある。 これは、次数が1以上の任意の複素係数一変数多項式には複素数の根が存在するという定理である。 微積分学の基本定理は微積分学の根底を成す定理と言っても不自然ではないが、代数学の基本定理を代数学の根幹を成す定理だと主張する人は、おそらくいないだろう。 代数学の基本定理を、代数学の一分野である体論の言葉で述べると、「複素数体は代数的閉体である」という主張になる。 つまり、代数学全体にまたがる定理ではなく、体論で扱える程度の定理である。 では、なぜ「基本定理」という名を冠しているのだろうか。 それは、代数学をどう解釈するかにかかっている。
代数学は、もともと方程式を解くための学問であった。 方程式を解く学問という枠組みから見れば、代数学の基本定理はまさに「基本」である。 その流れでいけば、5次以上の解の公式を見つけようとするのは至極当然だ。 連立方程式を解くために、今日「行列式」と呼ばれるものも開発され、行列式を生み出す母体として行列が登場した。 そして、解の形から解同士の関係(置換群)に着目するようになり、Galoisが登場し、方程式論は抽象代数学の一分野となり、代数学の基本定理は体論の成果となった。
仕事をしていると、「これが社会人の基本だ」などと宣う人が出てくる。 だが、それが本当に普遍的なものかどうかは、実のところわからない。 代数学の基本定理が方程式論にとっての基本定理であるように、狭い範囲でしか成り立たない「基本」なのかもしれない。 脅されても真に受けず、冷静に見つめていきたい。