『時を超えた建設の道』を読んで¶
2015-09-01 公開
『時を超えた建設の道』を読んだ。 ソフトウェア開発におけるデザインパターンの発想源となったクリストファー・アレグザンダーの『パタン・ランゲージ』と、その理論的背景を説明する本である。
建設という時を超えた一筋の道がある。(P.7 L1)
という一節から始まり、時を超えた道を求めるには「無名の質(Quality without a Name)」を知る必要があると説く。 その「無名の質」に到達するために、建設におけるパタンを言語(パタン・ランゲージ)として組み立て、それに基づいて人々が「会話」をする。 設計に関わる全員、つまり建築家から施工者、そして住み手までが共通の言語を持つべきだ、というのが本書の主張である。
興味深いのは、アレグザンダーが数学科の出身であることだ。 数学では、定義から命題へ、命題から定理へと、対象を秩序立てて構築できる。 しかし、現実の建設や街並みはそうはいかない。 定義しようとすれば取りこぼしが生まれ、定理にしようとすれば反例が出る。 その渾沌を相手にした数学者が辿り着いたのが「名づけられない質」だったのではないか。 名づけてしまえば失うものがあるから、「無名」のままにしておく。 私はそのように本書を読んでいる。
この姿勢を見て、荘子の無為自然を思い出した。 本文にも、無為自然と言い換えられる概念が繰り返し登場する。 パタン・ランゲージは、設計者から住人に決定権を返すための言語であり、その意味でも「為さずに為す」の系譜にある。
GoFと呼ばれる4人は、ここからソフトウェア開発のデザインパターンを見出したが、アレグザンダーの射程からは大幅に簡略化されている。 ソフトウェアの設計は自宅や街路、コミュニティに比べてより秩序立った領域なので、無名の質を相手取らずに済んだのだろう。 一方で、パタンを「会話のための言語」ではなく「カタログ」として運用することも、ソフトウェアの世界では成立してしまう。 そこで失われているものがあるのではないか、というのが読み終えて手元に残った問いである。